2026年4月13日
請求書の振込手数料はどちら負担?法的根拠と文例付き解説
振込手数料はクライアント負担が法的な原則です。民法・フリーランス新法の根拠から、請求書への書き方・クライアントへの伝え方まで実務文例付きで解説します。
フリーランスとして活動していると、一度は直面する疑問があります。
「請求書に書いた金額より少し少ない金額が振り込まれた。振込手数料を引かれたみたいだけど、これって普通のことなの?」
数百円のために角を立てるのも大人げないかと思って黙っていた、という経験をしたフリーランスは少なくないはずです。
結論から言うと、これはクライアント側が勝手に差し引いてよいものではありません。ただし、慣習として黙認されているケースも多く、フリーランスが泣き寝入りしている場面も少なくない。
この記事では、振込手数料の負担問題を法的根拠から整理したうえで、実際に使えるメール文例と、請求書への書き方まで徹底解説します。
振込手数料はどちらが負担するのか?結論から言う
原則として、振込手数料はクライアント(支払う側)が負担すべきものです。
これは慣習の話ではなく、法律に根拠があります。後ほど詳しく説明しますが、先に実務的な結論を押さえておきましょう。
| 状況 | 振込手数料の負担 |
|---|---|
| 契約書・請求書に何も書いていない | クライアント負担が原則 |
| 「振込手数料はご負担ください」と記載がある | クライアント負担を明示 |
| 「振込手数料は差し引いた金額でお振込みください」と合意している | フリーランス負担に変更可能 |
| 何の合意もなく差し引かれた | 差額の請求が可能 |
フリーランスが請求書の金額より少ない入金を受け取った場合、それは本来受け取るべき報酬の一部が未払いの状態です。「まあ、いいか」で流してしまうのは損です。
法的根拠:民法が定める原則
持参債務の原則(民法第484条)
民法第484条第1項では、金銭の支払いのような「特定物以外の弁済」は債権者(フリーランス)の現在の住所で行うものとされています(持参債務の原則)。
この原則に従えば、クライアントが報酬をフリーランスの「元へ届ける」義務を負っている、と解釈できます。振込という手段を選ぶのはクライアント側であり、その手段にかかるコストもクライアントが負うべき、という考え方の根拠になります。
ただし、民法484条はあくまで「弁済の場所」の規定です。手数料負担を直接定めているのは次の485条です。
民法第485条:弁済の費用
民法第485条には「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする」という趣旨の規定があります。
「弁済の費用」とは、支払いを実行するためにかかるコストのことです。振込手数料はまさにこの「弁済の費用」に該当します。つまり、別途合意がなければ支払い側(クライアント)が負担するのが法的な原則です。
フリーランス新法との関係
2024年11月に施行されたフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、継続的な業務委託において、発注者がフリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額することを禁じています(第5条第1号)。
ポイントは「継続的業務委託」という条件です。単発・スポット案件には直接適用されません。ただし、単発案件でも民法485条の原則は変わらず適用されます。振込手数料の無断差し引きが常態化している継続取引であれば、フリーランス新法違反として公正取引委員会・中小企業庁への申告も検討できます。
書類フロー全体のおさらいは「見積書から請求書まで|フリーランスの書類フロー完全ガイド」でまとめています。
よくあるトラブルパターン3選
パターン1:無断で振込手数料を差し引かれる
最もよくあるケース。請求書通りに送ったのに、振込額が数百円〜数千円少ない。問い合わせると「振込手数料を引かせていただきました」と返ってくる。
このケースは前述の通り、合意なき一方的な減額です。「慣習だから」「うちはそういうルールで」という説明があっても、法的には正当化されません。
差額の支払いを求めることができます。ただし実際には「少額だし関係が悪くなるのも嫌だ」という心理から泣き寝入りする人が多い。
対策:請求書に「振込手数料はご負担ください」と一文を入れておく。これが記載されていれば、クライアントも差し引きにくくなります。
パターン2:「振込手数料は引いていいですか?」と最初から聞いてくる
取引開始時や請求書を送ったタイミングで、「振込手数料はこちらで差し引いてよいですか?」と確認してくるクライアントもいます。
これ自体は誠実な行為ですが、フリーランスとしてはYesと答える必要はありません。断っても問題ありませんし、「承知しました」と答えた場合は合意したことになります。
断りづらい状況であれば、「今回は対応しますが、次回からは請求額でお振込みいただけると助かります」と伝えて、段階的に是正していくのが現実的な方法です。
パターン3:毎回少しずつ引かれていて気づかなかった
長期的な継続案件で、毎月振込手数料が差し引かれていた。気づいたのは数ヶ月後。累計すると相当な額になっていた。
このケースは過去分の差額を遡って請求することも法的には可能ですが、実務的には難しいケースが多いです。
教訓としては、毎月の入金額を請求書と照合する習慣を持つこと。小額でも差異があればすぐに確認する。
入金が遅れたり金額が合わなかったりするトラブルの対処法については「入金が遅れたときの対処法」でも詳しく解説しています。
請求書への書き方と文例
フリパレでは振込手数料の記載欄を含む請求書テンプレートを、登録不要・無料で使えます。以下の文例をそのまま備考欄に貼り付けるだけで対応できます。
振込手数料の記載:2つのアプローチ
アプローチ1:クライアント負担を明示する
請求書の備考欄や支払い条件欄に次の文言を入れます。
振込手数料は貴社にてご負担ください。
または
恐れ入りますが、振込手数料はご負担いただけますようお願い申し上げます。
これが最もシンプルで効果的な書き方です。「法的にはクライアント負担が原則」だとわかっていても、何も書いていないと相手は「引いてもいいだろう」と判断してしまうことがあります。明示することで認識齟齬を防げます。
アプローチ2:振込手数料込みの金額で請求する
クライアント側の都合で手数料を負担することが確定している場合は、振込手数料の金額を加算した額で請求する方法もあります。たとえば報酬が50,000円で振込手数料が330円かかる場合、請求額を50,330円にして「振込手数料込み」と備考欄に記載する方法です。ただしこの方法は、相手が想定外と感じる可能性もあるため、事前に合意を取っておくのが無難です。
請求書備考欄の文例
【お支払いについて】
・支払期限:〇〇〇〇年〇月〇日
・お振込先:〇〇銀行 〇〇支店 普通 口座番号〇〇〇〇〇〇〇
口座名義:〇〇〇〇(フリガナ:〇〇〇〇)
・振込手数料は貴社にてご負担ください。
・ご不明な点がございましたら、お気軽にご連絡ください。
クライアントへの伝え方・交渉文例
シーン1:初めて取引するクライアントへの事前確認
件名:お支払い条件のご確認(〇〇業務)
〇〇株式会社 〇〇様
お世話になっております。〇〇(氏名)です。
この度はお仕事のご依頼をいただき、誠にありがとうございます。
今後の請求書の発行に際しまして、お支払い条件についてご確認させてください。
・お支払いサイト(締め日・支払日)
・お振込時の振込手数料の取り扱い
当方としては、請求書記載の金額でお振込みいただくことを基本とさせていただいております。
もし何かご不明な点やご事情があれば、お気軽にご相談ください。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
〇〇(氏名)
シーン2:振込手数料を差し引かれた後に送るメール
件名:ご入金金額のご確認について(〇〇年〇月分)
〇〇株式会社 〇〇様
お世話になっております。〇〇(氏名)です。
先日、〇〇年〇月〇日付けで〇〇円のご入金を確認いたしました。
ありがとうございます。
お手数ですが、当方の請求書記載金額(〇〇円)との差額(〇〇円)を
ご確認いただいてもよろしいでしょうか。
振込手数料として差し引かれた場合、恐れ入りますが、
振込手数料はご負担いただけますと助かります。
もし別の理由がございましたら、ご教示いただければ幸いです。
ご確認のほど、よろしくお願いいたします。
〇〇(氏名)
このメールのポイントは、責めるトーンにしないことです。「差し引かれた」という表現を使わず、「差額をご確認いただいてもよろしいでしょうか」という形で、相手に気づきを促す書き方にすると角が立ちません。
シーン3:今後の振込条件を変更したいとき
件名:振込手数料の取り扱いについてのご相談
〇〇株式会社 〇〇様
お世話になっております。〇〇(氏名)です。
いつもご愛顧いただきありがとうございます。
一点、振込手数料の取り扱いについてご相談させてください。
現在、毎月振込手数料を差し引いた金額でお振込みいただいておりますが、
来月以降は請求書記載の金額でお振込みいただけますでしょうか。
ご不便をおかけしてしまうかもしれませんが、ご対応いただけると大変助かります。
お忙しいところ恐れ入りますが、ご検討のほどよろしくお願いいたします。
〇〇(氏名)
支払い督促が必要になるケースの対応については、支払い督促メールの文例集(近日公開予定)もあわせてご参照ください。
振込手数料問題を未然に防ぐ3つの習慣
1. 請求書に必ず「振込手数料はご負担ください」と入れる
これを入れるだけで、ほとんどのトラブルは防げます。明示されていれば、クライアントも「うちは引かせてもらっているんだ」とは言いにくくなります。フリパレの請求書テンプレートには備考欄が標準装備されており、一度設定しておけば毎回入力しなくても済みます。
2. 取引開始前に支払い条件を書面で確認する
口頭やチャットだけの合意は後から「言った・言わない」になりがちです。発注書のもらい方で解説しているように、発注書や契約書に支払い条件(振込手数料の取り扱い含む)を明記してもらうのが理想です。請求書を作る前の書類フロー(見積書→発注書→契約書)をしっかり踏むことで、こうした細かい条件のすり合わせが自然にできるようになります。見積書から請求書まで|フリーランスの書類フロー完全ガイドも参考にしてください。
3. 入金額を毎回請求書と照合する
当たり前のことに見えますが、案件が増えてくると入金確認が雑になりがちです。金額差異はその月のうちに確認しておかないと、翌月以降に持ち越されて話が複雑になります。入金が遅れたときの具体的な対処フローについては「入金が遅れたときの対処法」で詳しく解説しています。こちらも合わせて読んでおくと、お金の管理全体を強化できます。
まとめ
振込手数料の負担問題は、「大したことない」と思われがちですが、法的には明確にクライアント負担が原則です。
- 民法第485条:弁済の費用は支払い側(クライアント)が負担
- フリーランス新法:継続的業務委託において合意なき一方的な報酬減額は禁止
- 対策は請求書に一文追加するだけ:「振込手数料はご負担ください」と明記する
毎回数百円でも、年間で考えると数千円〜1万円以上になることもあります。フリーランスとして自分の報酬をしっかり守るために、請求書の書き方と、クライアントへの伝え方の両方を身につけておきましょう。
請求書を毎回ゼロから作るのが面倒な方は、フリパレで無料作成してみてください。見積書・請求書・契約書をまとめて管理でき、振込手数料の記載欄も含めた書類を登録不要で作れます。書類まわりを一度整えておくだけで、クライアントとのお金のやりとりがぐっとスムーズになります。